基礎知識

歯ぎしりをしているとインプラントできないの?

19.10.07

日本人の約7割以上が1度は経験していると言われる歯ぎしりは、寝ている間に無意識に歯をすり合わせる行為を指します。歯ぎしりは歯に負担が掛かることからも歯科医院で行う治療対象となり、症状の改善や対策がされるまでは、インプラント治療を控えるべきであると考えられています。しかしなぜ、歯ぎしりの症状があるだけでインプラント治療が行えないのか、その対処法までご存知でいる人は少ないのではないでしょうか。そこで今回は、歯ぎしりとインプラントの関係性についてご紹介します。

歯ぎしりの基本知識

歯ぎしりは寝ている間に無意識に「ギリギリ」と音を立てながら、上下の歯をすり合わせるイメージがありますが、歯ぎしりは以下記載の3つのタイプに分類されます。

▼グラインディング

一般的に広く認識されているタイプの歯ぎしりであり、上下の歯を「ギリギリ」とすり合わせ、多くの場合は寝ている間、無意識に行われるために力が入り、歯や顎、顎関節に負担が掛かります。寝ている間に症状が現れるために、自身では気づくことが困難であり、家族や周りの人から指摘を受けることも多く見受けられます。

▼クレンチング

上下の歯を力強く食いしばる、または噛みしめるタイプの歯ぎしりです。大きなストレスを感じている場合に症状が現れることも多く、起床時に無意識に行われるために咬み合わせ部分がすり減ったり、顎のエラ部分に違和感や痛みを生じたりする場合があります。クレンチングは歯ぎしりの特徴の1つである「カチカチ」や「ギリギリ」といった音が生じにくいタイプの歯ぎしりであるため、比較的気づきにくい歯ぎしりです。

▼タッピング

上下の歯を「カチカチ」と鳴らしながら咬み合わせる歯ぎしりです。グラインディングやクレンチングと異なり、歯や顎に負担が少ないために、家族や周りの人が就寝時の「カチカチ」と鳴る音に気づき、歯ぎしりが発見されることが多い傾向にあります。

歯ぎしりの症状があるとインプラントはできない?

インプラントは人工歯根を顎の骨である歯槽骨に埋め、失った歯の機能を補うために、天然歯に比べると歯ぎしりに対する耐性がなく、インプラント治療を受けることは不向きとされています。その理由は以下の通りです。

▼インプラントには歯根膜が存在しない


インプラントはインプラント体、アバットメント、上層構造の3構造から形成されています。そのうちのインプラント体は人工歯根とも呼ばれ、金属で唯一人骨と結合するとされるチタンで出来ており、インプラントと歯槽骨は直接結合させ、インプラントを維持することで、失った歯の機能を補います。

一方で天然の歯の周りには歯根膜と呼ばれる歯周組織が存在します。歯周組織とは、歯を支える組織である歯肉、セメント質、歯槽骨、歯根膜を指し、中でも歯根膜は天然歯を覆うように形成される薄い膜であり、歯が受ける衝撃から守るクッションの役割があります。

天然の歯が抜けてしまう場合、歯と一緒に歯根膜も失ってしまうために、後にインプラントを歯槽骨に埋めたとしてもクッションとなる歯根膜が存在しないために、受けた衝撃が和らぐこともなく直接インプラントやその周辺組織に伝わり、インプラントが破損したり、インプラント周囲炎になったりするリスクが高まってしまいます。

インプラント周囲炎とは、インプラント周囲の歯肉に炎症が生じ、インプラントを支える歯肉や歯槽骨まで炎症がひろがり、やがてインプラントを支えきれず、維持できなくなる恐れが高まります。

インプラント周囲炎はインプラントの寿命を奪う疾患として広く知られ、インプラントを末永く維持するために、定期的にメインテナンスやクリーニングなどをおこない、インプラント周囲炎にならないために予防が必要となります。

このことからも、歯ぎしりの症状が目立つ場合には、インプラント治療を行うことは不向きとされています。

歯ぎしりの対処方法


歯ぎしりを対処することで、インプラント治療を受けられる可能性もあります。歯ぎしりは想像以上にその力は強く、就寝時に無意識に行われる歯ぎしりを根本的に改善させることは難しく、ナイトガードを使用した対処的な治療をおこないます。

ナイトガードはボクシングなどのスポーツでも使用されるマウスピースと同等なものであり、就寝時に装着することで上下の歯をすり合わせるグラインディング、上下の歯を食いしばるクレンチング、カチカチと咬み合わせてしまうタッピングなどの歯ぎしりを防止することが可能となります。

ナイトガードは保険適応な診療であるために、数割負担で作成することが可能であり、その製作期間も最短1~2時間で作成でき、比較的容易に製作することが可能です。また、市販のマウスピースと異なり、歯科医院で製作するナイトガードは患者さま1人1人専用のナイトガードを製作できます。

▼ナイトガード

ナイトガードはゴムやプラスチック製で出来ているため、口の中に装着しても傷つくことはありません。しかし、歯ぎしりの力によりナイトガードはすり減り、力や歯ぎしりのタイプによっては、2~3ヶ月で咬み合わせ部分がすり減ってしまい交換しなくてはならない場合もありますが、平均では1~2年使用できると言われています。修理することはできないために、新たにナイトガードを製作する必要があります。

また、ナイトガードのお手入れ方法は、歯ブラシを使用し流水下で洗い流し、水滴を清潔なガーゼやタオルで拭き取り保管するだけなので、大きな負担もなく管理することが可能です。

歯ぎしりはストレスが要因となり症状が生じてしまう場合もあるために、ストレスを溜めないように心がけることも大切です。

まとめ


以上、今回は歯ぎしりとインプラントの関係性について、ご紹介いたしました。歯ぎしりの原因は様々であり、歯ぎしりを根本的に治療することは容易ではありません。しかし、ナイトガードを活用することで、避けるべきとされているインプラント治療を受けられる可能性が高まります。歯ぎしりは歯やその周りの組織に負担がかかり、インプラントを維持することが難しくなるリスクが高まるため、インプラント治療を諦めている場合には、お気軽にご相談ください。