インプラントコラム
COLUMN
歯ぎしりが与えるインプラントへの影響とは
20.08.30
インプラントは失った歯の機能回復治療として非常に優れた点が多い治療法ですが、日常
の過ごし方によってはインプラントに悪影響を与えてしまうことがあります。そのひとつ
として挙げられるのが「歯ぎしり」です。では歯ぎしりはインプラントにどんな悪影響を
与えてしまうのでしょうか。
無意識に行われている「歯ぎしり」が口腔内に与える影響
歯ぎしりや食いしばりは、ご本人が気づかない間に無意識に行われている癖です。歯ぎし
りと言えば、寝ているときの「ギリギリ」といった歯を擦り合わせるイメージが最も強い
と思います。ご自身は眠っていて全く歯ぎしりに気が付いていませんが、同居する家族の
方の指摘で気付くことがほとんどでしょう。
また食いしばりは、一瞬の力を必要とするときに「グっ」と強く噛みこむイメージがあり
ます。「歯を食いしばって耐えろ!」とスポーツの厳しい練習中にも飛んできそうな言葉
のイメージを抱く方もいるかもしれません。それ以外にも日常生活の中で、気づかずに歯
を食いしばっている方も非常に多くいらっしゃいます。自覚症状があるのはごく一部の方
だけで、ほとんどの方は、「自分は歯ぎしりや食いしばりなんてしていない!」と思って
いるため、歯科医師に指摘をされて初めて気が付くこともあります。そして歯科医師に指
摘をされるということは、既に歯や粘膜に何かしらの異常が生じてしまっているのです。
このように、歯ぎしりや食いしばりという無意識に行われている癖が、口腔内に非常に大
きな影響を与えてしまいます。と言うのも、歯ぎしりや食いしばりは、歯にものすごい力
がかかるためです。日常の食事で噛む力とは比較にならないほど、その負荷は大きく、歯
に深刻なダメージを与えてしまうのです。
歯ぎしりや食いしばりの影響としてまず挙げられるのは、歯の摩耗です。歯同士が強い力
で擦り合わされるため、歯の表面のエナメル質がすり減り、内部の象牙質が露出してしま
います。摩耗がひどい方だと、歯の1/3くらいまで削れてしまっていることもあります。こ
の状態になると、冷たいものなどの刺激が神経に伝わり、痛みを感じるようになります。
噛み合わせにも変化が起こり、噛みにくいなど口腔機能に影響が出るほか、咬合異常によ
り頭痛や肩凝りといった不定愁訴を引き起こすこともあります。
また歯ぐきが下がり、虫歯や歯周病のリスクの高まり、そして継続的に強い負荷が加わる
ことで顎の関節に負担がかかり、顎関節症になる恐れがあります。このように歯ぎしりや
食いしばりは、お口の中に深刻な問題を引き起こしてしまうのです。
天然歯にはあって、インプラントにはない「歯根膜」について
歯ぎしりや食いしばりは天然歯だけでなく、インプラント治療をした歯にとって大きな脅
威となってしまいます。それは、天然歯にはあってインプラントにはない「歯根膜が」関
係しています。
天然歯の根の周りには歯と顎の骨を繋いでいる「歯根膜」という薄い膜があります。歯根
膜は噛んだ時の力を均等に分散させるクッションの役割があり、噛む力をコントロールし
ます。また血液の供給という役目も担っており、健康な歯と歯肉に欠かせないものとなっ
ています。
しかしインプラントには歯根膜はありません。顎の骨に直接インプラント体を埋入するた
め、歯根膜の働きをカバーするものが無い状態と言うことは、インプラント周囲炎や噛み
合わせの異常といったリスクが高まってしまうことを意味します。
懸念される噛み合わせの異常については、インプラントはクッションの役割を持つ歯根膜
がないことで、噛んだ時の力が顎の骨にダイレクトに伝わります。そのため噛み合わせに
異常が出てしまう恐れがあるのです。
歯ぎしりはインプラントに深刻な影響を与えることも・・・
インプラントと聞くと、患者様はまず「手術が心配」「治療期間はどのくらい?」「痛く
ない?」とインプラント治療そのものが不安点として感じられると思います。この不安や
疑問は患者様にとってごく自然なことであることは間違いありません。
いっぽう歯科医師側としては、患者様の口腔内の状態がインプラントに適しているかどう
かを診断しなければいけません。歯周病などによって顎の骨がインプラントに適した厚み
があるかどうか、基礎疾患がないかどうかを確認しますが、その中で注意していることが
あります。それが「患者様に歯ぎしりや食いしばりの癖がないかどうか」です。先ほどお
伝えしたように、歯ぎしりやしまう食いしばりはインプラントに重大な影響を与えること
があります。噛み合わせは、何よりも大切です。ところが歯ぎしりによって噛み合わせに
影響が生じてしまうと、インプラントの失敗に繋がりかねません。
また丈夫とはいえ、インプラントに被せるセラミッククラウンなどの上部構造も強い摩耗
によってかけてしまうことがあります。インプラント治療後のインプラント周囲炎は、し
っかりとしたセルフケアとメンテナンスで防ぐことができますが、就寝中や日中の無意識
に行われる歯ぎしりや食いしばりはなかなか改善が大変であることが実情です。
インプラントを歯ぎしりから守るには?
お伝えしてきたように、歯ぎしりや食いしばりは、天然歯やインプラント、顎の骨にとっ
て脅威です。特にインプラントには大きなダメージを与えかねないため、対策が必要とな
ります。
その対策とは、「ナイトガード」あるいは「スプリント」と呼ばれるマウスピースを装着
することです。ナイトガードやスプリントを装着することで食いしばりなど歯と歯の接触
や強い負荷を緩和し、インプラントや天然歯に対する影響を和らげることができます。ま
た歯周病や顎関節症の予防にもなるため、気になる方はいちど歯科医院で相談してみても
いいかもしれません。
ナイトガードやスプリントは素材に違いがあり、ソフトタイプとハードタイプといったも
のがあります。素材や硬さの違いは患者様の噛み合わせの状態により異なります。
また歯ぎしりが強い方はすり減りも早く、再作製が必要になりますが、保険適用のため負
担が少なくて済みます。また日中や就寝時に装着していることで、汚れや着色しやすくな
るため毎日きれいに洗って清潔にしておく必要があります。
このように、インプラント治療において歯ぎしりの有無は非常に重要になってきます。インプラント治療を検討中の方で歯ぎしりの自覚症状がある方や歯科医師に指摘された方は、ナイトガードの必要性など歯科医師の指示をしっかりと守るよう心がけましょう。