基礎知識

高齢者のインプラント治療について

19.04.15

高齢者の方で歯を失った場合、ほとんどが入れ歯を選んでいらっしゃると思います。入れ歯は保険が使えるため安価で治療できますが、しっかり噛めない、入れ歯がガタつくなど多くの問題点を抱えています。インプラントはこのような入れ歯の問題点を改善できる優れた治療法ですが、高齢者のインプラント治療の場合、どのようなことに注意すべきなのでしょうか。

高齢者の口腔内について

年齢を重ねるにつれ、お口の中の環境は若い頃と比べて変化が生じてきます。その代表といえるのが、歯周病です。年を重ねるごとに歯周病は少しずつ進行し、それに伴って歯を支える歯槽骨が吸収されていきます。そのため高齢になると歯を失う人が多く、ほとんどが部分入れ歯や総入れ歯で噛む機能が補われています。

また歯を失うとしっかり噛むことが難しくなり、体や脳の機能にも影響が出やすくなってしまうと言われています。そのため栄養の摂取が難しくなり、食べる機能を維持することが難しくなってしまうのも高齢者の口腔内の特徴です。

 

入れ歯の特徴とデメリット

インプラント歯周炎と歯周病の関係

高齢者の場合、歯を失ったときの咀嚼機能回復治療は入れ歯がほとんどです。入れ歯は保険適用のため安価で治療することができること、治療期間が短いこと、破損しても修理しやすいことなどがメリットとして挙げられます。また抜歯以外の外科手術を伴うこともないため、持病や飲んでいるお薬に関係なく治療することができます。

しかし入れ歯には、しっかり噛めないという最大のデメリットがあります。噛む力において、部分入れ歯は天然歯の30~40%程度、総入れ歯では10~20%くらいしかないと言われています。実際に入れ歯を使っている方から「固い物が噛めない」という声が圧倒的に多く、いかに入れ歯が噛み辛いかを物語っています。

また入れ歯は作製当初は合っていても、時間とともにだんだん合わなくなっていきます。というのも、歯がない部分の骨吸収が進むため、どうしても入れ歯と歯ぐきの間に隙間が生じてきます。そのため入れ歯がガタガタして食べ物が挟まって痛みを感じたり、外れやすくなってしまうのです。
合わない入れ歯で食事を続けると噛むことができず、食事自体が苦痛となって感じてしまうものです。その結果、食べる気力が減退し、栄養不足になって体の健康に悪影響が出てしまいます。また入れ歯を外して食事をするなど、深刻な事態に陥ってしまうことも、入れ歯の問題点と言えるでしょう。

 

高齢者とインプラント治療

このような入れ歯の問題点を解消するのが、インプラントです。インプラントは外科手術によって顎の骨にインプラント体を埋め込み、人工歯を装着して噛む機能を取り戻す治療法です。外科手術といっても、インプラント1本あたり約30分程度で終了することがほとんどです。
しかし高齢者の場合、持病があったり飲んでいる薬によって外科手術が難しい場合があります。またインプラントの本数が多いと手術時間が長くなり、若い方に比べると体力を消耗してしまうことも考えられるため、慎重に対処しなければいけません。特に重度の糖尿病や骨粗しょう症を患っている方は、インプラント治療そのものが不可能なケースも存在します。

またインプラント治療後は口腔ケアが非常に重要となりますが、病気などで寝たきりになってしまうと口腔ケアが難しくなってしまいます。このような場合、お口の中に細菌が増殖して不衛生な状態となり、インプラント周囲炎を引き起こす可能性が高くなります。インプラント周囲炎になると歯肉の腫れ、出血とともにインプラントがグラグラし始め、最終的にインプラント体が抜け落ちてしまいます。高齢者がインプラント治療を希望する際には、このようなデメリットも理解しておくことが必要です。

 

高齢者向けのインプラント治療とは?

では高齢者のインプラントでは、どのような方法があるのでしょうか。通常は、麻酔後に歯ぐきを切開して顎の骨にインプラントを埋め込みます。しかし高齢者の場合、体への負担を考えると「フラップレス」という歯ぐきを切開せずにインプラントを埋入する治療のほうが適していると考えられます。フラップレスなら出血量も少なく、高齢者の体への負担も少ない治療法と言えます。

また歯を全て失って総義歯になってしまった方は、総入れ歯の不自由さを何とかしたいとお思いのことと思います。オールオン4という、4本のインプラントで10本の人工歯を支える方法もありますが、手術時間が長めであり、高額な費用がかかります。そのため高齢者にはやや負担が大きい治療法である感が否めません。

そこでご紹介したいのが、入れ歯をつかった総入れ歯の方向けのインプラント「オーバーデンチャー」です。オーバーデンチャーは、現在お使いの入れ歯または新たに作製した入れ歯をインプラントに固定させて噛む力を取り戻す優れた治療法です。

入れ歯をインプラントで支えるため、簡単には外れません。そのため食事や会話の最中に外れて入れ歯が落ちてくる心配もありません。しっかり噛むことができるため、総入れ歯による食事のわずらわしさを解消することができます。
オーバーデンチャーのよさは他にもあります。通常のインプラントで多くの義歯を支える場合、たくさんの数のインプラントを埋め込まなくてはいけません。また人工歯が装着されるまでの間は歯がない、あるいは仮歯のため噛みにくい状態が続きます。

これに対し、オーバーデンチャーは2~4本という少ないインプラントの本数で済み、現在お使いの義歯を使うことができるため、手術後から食事をしていただくことが可能です。

このように、高齢者の方でも健康状態に大きな問題がなければ、インプラント治療は可能です。しっかり噛むことができるようになることで再び食事の楽しさを感じ、体の健康を維持することが可能となります。

しかしこれはあくまでも、手術を行うことに対して問題がない場合です。持病や投薬により手術が難しい場合、かかりつけの内科医とよく相談することが前提となります。治療計画をしっかりと立て、インプラント治療に併せて持病や投薬をコントロールし、慎重に進めていくことが必要です。
手術に対する体力がない、持病をコントロールできない場合は、インプラント治療を断念し、入れ歯による機能を維持することになると思います。

 

口腔内の衛生状態を維持できるかどうかがカギ

高齢者のインプラントで気をつけなければいけないのは、手術だけではありません。インプラント治療後のメンテナンスがきちんと行えるかどうかも、実はとても重要なのです。
定期的なメンテナンスに通っていただくことはもちろん、もし今度介護が必要になったとき、口腔内の衛生管理がきちんと行えるかどうか。通院はどうするのかなど、介護体制をどうするかを歯科医師と話し合っておく必要があります。